こんばんは、住職です。
東京国立博物館(以下通称トーハク)へ、曹洞宗総合研究センターの研修生10名を連れて大人の社会科見学に行ってきました。これは私が担当している講義「寺院活動論2」の所外研修として今年で4年目となります。トーハクといえば日本を代表する国立の博物館の一つ。上の森の中に多数軒を連ねる美術館、博物館の中でもひときわ立派な門構えです。
いざ、トーハクの門をくぐります。
向かう先は展示室ではなく、ここミュージアムショップです。
本館の入り口のすぐ左手にあり、以前は地下にあったショップが広い展示室に移りました。私が大学生の頃、二十数年前にはまだ地下にあった記憶があります。
毎年行っている研修とは、トーハクのミュージアムショップの商品開発や最近のトレンドなどを学ぶというマーケティングのフィールドワークのような講義なのです。ついつい散財してしまいがちな場所であり、高価なハイエンド商品からばら撒き用の安価なものまで、実に豊富なラインナップです。
このショップはトーハクそのものではなく、「一般財団法人東京国立博物館協力会」という団体の方々によって運営されています。
こちらは雅楽演奏家の東儀秀樹さんが自身のSNSでも投稿されて話題になった舎利容器クッション。古代の楽人たちの演奏する様子が描かれています。
こちらは舎利容器キーホルダー。かわいいです。
こちらは東儀秀樹さんのInstagramから。
こうして人を魅了してやまないグッズの数々はどのようにして作られているのでしょうか。
本館の地下にある東京国立博物館協力会、こちらがショップのグッズを取り扱っている団体の事務所の入り口です。普段は入ることのない場所でしょう。
こちらでは年に2回、グッズを制作するにあたり外部からの商品の企画が持ち込まれ、それらが売れるかどうか、企画としての魅力があるかどうか、ここでしか買えないオリジナルのものかどうか、国宝である所蔵品への敬意があるかどうかなど、厳しい審査を潜り抜けたものだけが商品化されます。
博物館の主役は所蔵品であり、それらを監修するのはトーハクの職員や学芸員です。企画が飛躍しすぎていて意図が伝わりにくいものや、学芸員としてNGが出たものは商品化されずにボツとなってしまうわけです。この辺りが、ただ売れればいい商売の考え方と一線を画するところなのです。
研修の様子。毎年お世話になっている協力会の齊藤さんから近年のトレンドなども含め、商品企画や開発の裏側のお話をいただきました。
「商品を買って、展示物を好きになってもらう」
「ここに来た思い出を買ってもらう」
「売れればなんでも良いというわけではなく、所蔵品への愛と敬意を持って、往年のファンががっかりしないように配慮を忘れない」
刺さる言葉ばかりでした。
お寺にも通ずるものがあると思います。
トーハクの主役は国宝をはじめとする展示物や所蔵品。それゆえに、何重にも厳しいチェックが入り、主役への配慮がファーストになるわけです。
それをお寺に置き換えるのなら、お寺の主役は信仰や仏教。しかしながら、売れれば良い、目立てば良い、「いいね」やシェアの数が多ければ良いという指標が目的化されてしまうと、単にメディアに消費されるだけのお寺や仏教になってしまい、主役への配慮が欠けた状態になってしまいかねません。
このようなチェック機能が働かず、住職のカラーが独断先行してしまっている残念な事例はかなり多いという印象があります。主役は住職ではなく、仏教や信仰が主役である。トーハクの裏側のお話には、主役は誰かという問いを持ち続けることへの深い愛を感じたのでした。
大学や本山では、このような美術や歴史への愛や配慮、ある種の畏れのような感覚を学ぶ機会がほとんどありません。このような教育は、お寺に限らず、後世に伝えていきたい大切な財産だと思います。
この春から本館一階に展示されている金剛力士像は、常設展(東博コレクション展)の入り口に鎮座する主役のような存在です。普通は阿形・吽形が並んでいる構図が一般的ですが、まさか阿吽の両像が向かい合うとは驚きです。きっとこの商品企画の際も、トーハクの中の人々の様々な議論があって商品化されたのでしょう。
中の人の話を聞くと、商品の見え方も変わってくるものです。
ちなみに本館のコレクション展や東洋館、法隆寺館など、常設展チケットで入場できる部屋は、一部を除いてほぼ撮影が可能です。(ただし、三脚やフラッシュは禁止)。
今回も研修生の皆さんには、お持ちの方はカメラ持参とお伝えし、研修のあとは仏像撮影会を楽しませていただきました。
こちらの金剛力士像は正面から見るとふくよかな顔をされていて、なんとなく福々しい気持ちになります。お時間があれば、ぜひご覧ください。
トーハクの中の人に会って、お寺のこれからを学ぶ。
安洞院でも絵葉書やクリアファイル、ガチャ、手ぬぐい、ポーチ、コップ、スタンプなど、多くのグッズを制作してきましたが、今後もまた主役を大切にした素敵なグッズの開発に向けて精進いたします。
とても素晴らしい、稀有な研修となりました。
合掌
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