寺報ポストカードメイキングストーリー(2025年6月)

安洞院では毎月の寺報をポストカードの形式に変えて4年と1ヶ月が経過しました。そのはじまりはコロナ。なかなかお寺にお参りできない方々や遠方の檀信徒の皆様のために始めたのがポストカード寺報です。今月は、画像の通り、安洞院の廊下から望む庭園のデザインです。


位牌堂前の回廊は築50年になろうとしており、天井や床は修繕してきたものの、窓のサッシ部分は建築当時のままの曇りガラスのものでした。


こちらが施工前の写真です。

立て付けも悪くなり、そろそろペアガラスに交換するかどうか悩んでいた時、訪問した先で出会った景色にヒントをいただきました。当院とは松尾芭蕉関連で以前からお付き合いのある、岐阜県大垣市の「松尾芭蕉むすびの地記念館」という場所でした。


ガラス張りの通路から移築した茅葺屋根の建物と手入れされた竹林があり、アイディアが固まりました。松尾芭蕉の真筆やパネル展示も素晴らしかったのですが、この回廊でしばらく立ち止まり写真を撮っていたものです。ノートにメモなどを書き留めて、帰宅してすぐに大工さんとの打ち合わせを開始しました。

「え〜!住職、サッシの交換だったと思いますが、壁を抜くんですか!?」

「はい、壊します!全部壊してしまいましょう!」

こうして5月19日より作業開始となりました。


壁を壊すのに1日。あっという間に壁がなくなり、一間×一間とその半分のペアガラスの窓が入りました。本当に素晴らしい仕事の大工さんです。


壁が取り除かれ、一面に庭園の景色が飛び込んできました。

壁面一面が窓になったことで採光の点でも、とても明るい回廊になりました。ヒノキの無垢材の木目が美しく光ります。

朝、本堂側の窓からは松と紅葉、この季節にはサツキが美しく咲きます。実はハートの形にも見えますが、わかりますか?


外観の図。

窓枠もこれまでの色に合わせて塗装しましたので、もとからそこにあったかのような雰囲気です。


夜の回廊。暗くすると、外の光がうっすらと入ってきます。夜は夜ならではの雰囲気がありますね。


正面外観の昼の顔と夜の顔。左右対称に揃えた窓のシンメトリーが瓦屋根の美しい曲線とともに自然に溶け込んでいきます。多くの人が手を合わせる場所です。


こうして完成したのが、この窓です。

これから四季折々のどんな景色が映るのか、私たちお寺の人間もまだ体験したことがありません。紅葉の時期、雪の季節、桜の花、また新しい画像を公開していきますので、ぜひ現地にも足を運んでください。位牌堂正面の入り口は9時〜17時の間はどなたでもお入りいただけます。こちらのブログやSNSでも画像を発信していく予定です。


私の友人が広告業界に勤めており、農機具のKubotaの担当をしていた頃、長澤まさみがイメージキャラクターとして起用され「壁がある、だから行く。」というキャッチコピーが広告に出ていました。

困難があるから、その課題に進んでいくという気概を感じるとともに、今回の壁の工事でもこのコピーを何となく思い出していました。壁とは何だろうか。そのような、建築に関わらず、広く概念として存在する「壁」のことです。


壁とは、大切なものを守るものでもあり、また、時として境界をつくり不自由さを感じさせてしまうものでもあります。安定と不自由。安心と束縛。私たちの身の回りにもそういったものはたくさんあります。

この一つの窓工事の試みは、これまでの移動のために存在していた回廊という場所に、もう一つの機能や命を吹き込むことでした。壁は越えるものではなく、一度壊してみる。その先に現れた美しい世界に、何十年も気づかなかった寺院の美しさを改めて教えていただきました。


この回廊では、ゆっくりと座って庭園を眺めることができるよう、ベンチや椅子を設置しています。

車の往来も、余計なBGMもなく、風や木々や鳥の声が静かに響いています。

もしあなたが何か大きな問題や人生の壁に直面した時、この壁の向こうにある天地自然のありのままの命から、気づきやヒントを享受するような場所になれば嬉しいです。

美しく静かな、深い思索の回廊へようこそ。

ご来寺をお待ち申し上げます。


住職

antouin's Ownd

福島県福島市の曹洞宗寺院・安洞院のオウンドメディアです。ブログ記事とソーシャルメディアの投稿を中心に、お寺の各種法要やイベント告知・報告をアップしていきます。寺院の歴史沿革や詳細については公式サイト(http://antouin.com)を御覧ください。

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